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爆弾集め 1人の少女が鉄の船を見上げる。 少女というよりは、むしろ幼女と形容した方がしっくり来るような容貌。幼い顔立ちには、それに釣り合わぬ黒い眼帯。 「よし…」 呟くと、戦闘機人ナンバー5・チンクは、飛行要塞アヴァロンへと足を踏み入れた。 かつり、かつりと足音を鳴らし、薄暗い廊下を歩いていく。 これが空を飛ぶ船だと思える人間は、かなり限られてくるだろう。 普通の常識では、飛行可能な乗り物といったら、航空機か飛行船ぐらいしか浮かばない。 しかし、ミッドチルダでは、こういう乗り物が空を飛ぶのが常識なのだ。 そしてこういった形の物は、航空機よりはむしろ艦艇の役割をなす物の方が多い。それも軍用の。 故に、少し離れたスタート地点からこのアヴァロンを認めたチンクは、ここにある施設があると確信し、足を運んだのだ。 (…あった) そして、お目当ての部屋へとたどり着く。 すなわち、格納庫。 なにもその格納庫自体を探していたわけではない。これが質量兵器を禁止するミッドの船なら、大規模な格納庫はない方が自然だろう。 彼女が探していたのは、つまり工具がある部屋だった。 支給品のデバイスである、レイジングハート・エクセリオン――魔法の心得のないチンクには無用の長物だ――を爆破したことで、 触れた金属を爆弾に変えるIS・ランブルデトネイターが健在であることは確認済だ。 であれば、弾薬を稼いでおくに越したことはない。 スパナやドライバーなどの工具は、投擲武器として扱うには適したサイズだ。 この格納庫は、刃舞う爆撃手にとって、まさにおあつらえ向きの爆薬庫。 (これで武器は調達できる…) チンクは格納庫へと入り、ひとまず工具箱を探し始めた。 そう。 彼女はこのゲームに乗っている。 名簿に見つけた2人の家族が死なないようにするには、他の参加者を殺すのが手っ取り早いからだ。 その2人を思い返す。 まず、あの死人兵士――グレイヴは放っておいても平気だろう。彼が負ける姿はまず想像できない。 血液交換が必要になる頃には、近場の敵は粗方掃討しているだろう。 問題はもう1人――ディードの方だ。 このゲームには、高町なのはやフェイト=T=ハラオウンなどの強敵が何人か存在している。 否、ゲームの公平性を保つために、顔も知らぬ無数の参加者達の中にも、彼女らに匹敵する実力者を用意していてもおかしくないだろう。 そしてそれらの強敵達は、ディードの手に負える相手ではない。自分ですら怪しいくらいだ。 故に、自分が助けなければならなかった。 もっとも、ここにいる彼女が自分の世界とは別世界の住人であり、 そしてそのディードが、鬼食らう鬼――復讐を胸に誓う羅刹であることなど、チンクには知る由もないのだが。 「ん…?」 ふと、奥の方に何やら大きな影を見い出す。 近寄ってみると、そこにあったのは、人型の巨大な機動兵器だった。 漆黒の機体に黄金のラインを走らせ、背中には6枚の翼を有している。 さながら神話の魔王のごとき、雄大さと禍々しさ。 ナイトメアフレーム・ガウェイン。 それがこの人形の名前。 (あそこから人が乗る造りになっているのか…) ハッチの開け放たれた背中を見て、チンクはさぞ残念そうにため息をつく。 ガジェットのように、外部から入力した敵を自動攻撃する機体ならば戦力になったろうが、 操縦の必要があるなら話は別だった。 (あんなデカブツ、いきなりどうやって動かせと言うのだ。私はそんなに器用じゃない。) しかし、それにしても大きい。 ナイトメアの中でも大型機の部類に入るそれは、身長6メートル級のまさに巨人だ。 ガジェットのⅢ型ですら、こんなに大きくはない。せいぜい背中のコックピットブロックほどのサイズではないか。 そして、その巨体を見たことで、ふと、チンクの中にある1つの想いが芽生える。 「…これ…吹っ飛ばしたら、気持ちいいかな…」 人間誰しも、思いっきり派手に物をぶちまけたいという願望があって然るべきである。 そしてそれは、チンクも例外ではなかったようだ。 これだけ巨大な金属の塊は滅多にない。一体どれほどの爆発を起こせるだろう。 「…はっ、いかんいかん」 しかし、今は緊迫のバトルロワイアルの真っ只中。 そんな私情に気を取られている場合ではない。 というより何だ、このいかにも子供っぽい思考は。私らしくない。 ほんのり顔を赤く染めて首を振ると、チンクは再び工具を漁る作業に戻った。 そして、遡ること数分。 「ほぅ…」 チンクがアヴァロンへ入るのを、目撃していた者がいた。 銀の髪を後ろになでつけ、異様に長い日本刀を腰に差して。 1人の女性を引き連れた男が、その様子を見ていたのだ。 そして今。 半魔の剣士は獲物を求め、鋼鉄の船の中をさ迷っている。 【一日目 現時刻AM2 14】 【C-1 アヴァロン内部】 【チンク@魔法戦屍リリカル・グレイヴ Brother Of Numbers】 [参戦時間軸]第五話中。地上本部襲撃直前。 [状態]健康 [装備]特になし [道具]支給品一式、ランダム支給品0~2個、無数の工具(具体的な数は続きを書かれる職人様にお任せします) [思考・状況] 基本 グレイヴとディード以外の参加者を殺す 1.現在地で武器を調達。医療品も手に入れておくべきだろう 2.ディードを捜して合流する 3.あれは是非とも一思いに爆破させてみたかっ…って何を考えているんだ私は… [備考] ※支給されたレイジングハート・エクセリオン@リリカルなのはStrikerSを爆破しています 【バージル@魔法少女リリカルなのはStrikerS Strikers May Cry】 [状態]健康 [装備]正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 [道具]支給品一式、ランダム支給品0~1個、リインフォース@魔法少女リリカルなのはA s [思考・状況] 基本 目についた参加者は一人の例外なく殺す、もしくは利用する 1.周辺を警戒しつつ索敵。今のところは派手に動くつもりはない 2.あの小娘(=チンク)を見つけ出して殺す。その後はまたしばらく様子見に戻る 037 本編投下順 039
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キラ・ヤマト 物語開始時点ではオーブの小島で半ば幽閉生活を送る。サイの行動を陰ながら応援していたが…… アマミキョ内部では伝説級の人物として扱われている。 キャラクター
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古代遺物管理部、機動六課本部。 部隊長、八神はやての前に前線部隊の隊員たちが整列する。ザフィーラとシャマル、陸士108部隊から出向しているギンガ・ナカジマもその中に混じっている。 「今日、集まってもらったのは他でもない。私となのは隊長の故郷、海鳴市の近くで、レリックらしき反応と、怪しいエネルギー反応が検出された。これより六課はその調査に向かう」 「ミッドチルダはいいんですか?」 「もちろん全員では行かへん。シグナムを除いたライトニング分隊とギンガにはここに残ってもらう。フェイト隊長、部隊長代行、頼むで」 「了解」 長い金髪を後ろでまとめたフェイトが頷く。 「レリック捜査の方は他の陸士部隊に任せるということで、よろしくな」 「まさか、八神部隊長も行かれるんですか?」 青い髪をしたボーイッシュな少女、スバル・ナガジマが聞いた。ギンガ・ナカジマの妹で、六課スターズ分隊の一員だ。 「せや。別件で用事もあるしな」 はやては意味ありげに守護騎士の面々を眺める。 スターズ分隊の一員、髪をツインテールにした落ち着いた容貌の少女、ティアナ・ランスターは、はやての視線を追った。 シグナムは普段通りに見えるが、どことなく嬉しそうだ。ヴィータは落ち着きがないし、シャマルはそれを楽しげに見つめている。ザフィーラは……狼の表情はさすがに読み取れない。 こんなに浮ついた副隊長たちを見るのは、初めてだ。 その時、ティアナの背筋に寒気が走った。 ティアナの横には、栗色の髪をサイドポニーにしたスターズ分隊隊長なのはが立っている。隣のティアナしか気がついていないようだが、かすかな殺気が漏れていた。 (何!? なのは隊長の故郷に一体何があるの?) 「もしかしたら、長期出張になるかもしれへん。各自、そのつもりで準備よろしくな」 「ヴィヴィオも連れて行っていいかな?」 なのはが挙手をした。 最近なのはたちが保護した女の子だ。なのはとフェイトをママと呼び慕っている。 「せやな。連れてった方が安心やろ。フェイトちゃん、グリフィス君。留守は頼んだで」 「任せて。頑張ろうね。エリオ、キャロ」 「「はい、フェイトさん」」 フェイトが優しく話しかけると、十歳の少年と少女が元気に返事をする。 「出発は明朝。では、解散」 はやての号令を合図に、各自部屋に戻っていく。 自室に戻ったスバルとティアナは、早速準備を始めた。 「他の世界だって。楽しみだね、ティア」 鼻歌を歌いながら、スバルが鞄に着替えを詰めていく。 「あんたはいいわね。気楽で」 一方のティアナは浮かない顔だ。なのはたちの様子から、今度の調査には不安しか感じない。 「そりゃ、任務だから物見遊山ってわけにはいかないけど。でも、なのは隊長の故郷だよ。楽しみじゃないの?」 「あんた、隊長たちの様子が変なの、気がつかなかった?」 「別に。いつも通りだったでしょ」 ティアナはため息をついた。鈍いということも平穏に生きる為には、必要な技能なのかもしれない。 第97管理外世界『地球』海鳴市。 「さ、行くでー」 まるで旅行の引率のように、はやてが旗を振りながら故郷の町を案内する。季節は夏。蝉の声がやたらうるさい。 「なのはちゃんは、実家に帰らんでええの?」 「今夜は実家に泊まらせてもらうけど、それより任務が先だよ」 「固いなぁ。今日一日ぐらいゆっくり両親に甘えてきたらええのに。ヴィヴィオ連れてったら、きっと驚くやろな」 「こら、みんなが見てるよ」 和気あいあいと話すはやてとなのはを、スバルとティアナはキョトンと見つめていた。故郷の空気がそうさせるのか。こうしていると、エースオブエースも普通の女の子だ。 「この世界にいる間は無礼講や。スバルとティアナも隊長とか呼ばんでええからな」 「ですが……」 「構へん。構へん」 「わかりました……はやてさん」 口に乗せてから、ティアナは恐ろしく失礼な真似をしている気分になる。 「なのはさんの家に泊まるんじゃないんですか?」 スバルはすでに順応したのか、普通に話しかけている。 「うーん。簡単にいえば、現地の協力者やね。ほら、着いたでー」 「「て、ここですか!?」」 スバルとティアナはその家を見上げて唖然とした。 平屋だが、とにかく敷地面積が半端ではない。小さな道場が付属しており、庭は近くの森とつながっている。下手をしたら、機動六課本部と同じくらいの規模があるかもしれない。 ここなら活動拠点としては最適だろう。表札には『安倍』と書かれている。 シャマルがスバルたちの隣に来る。 「実はここにどうしてもスカウトしたい人がいるのよ」 「そうなんですか」 「色んな意味でね」 シャマルはくすくすと笑う。それを険悪な目つきでヴィータが睨んでいた。 安倍昌浩。陰陽師の修行をしながら、地元の学校に通う中学二年生だ。学校は夏休みに入っている。 その日、昌浩は自室で寝転がってマンガを読んでいた。 「昌浩。お客さんだぞ」 扉の向こうで祖父、安倍晴明の声がする。 「はーい」 昌浩は返事をすると、玄関に向かう。来客の心当たりはないが、一体誰だろうか。 「どちらさまで……!」 玄関に立っていた大集団を見かけた瞬間、昌浩は後ろに飛び退いて戦闘態勢を取る。 「あちゃー。かなり嫌われとるな」 「彼がどうしてもスカウトしたい人ですか?」 ティアナは困惑していた。 目の前の少年はごく普通の少年だ。長い黒髪を後ろで束ね、Tシャツにズボンとラフな格好をしている。十四歳と聞いているが、平均より身長が低く、エリオたちと同い年と言われても信じただろう。 「はい。安倍昌浩さん。陰陽師と言って、この世界の魔導師で、SSランクの魔力保持者です」 まるで妖精のように小さな上司、リインフォースⅡがはやてのカバンから頭を出して説明する。 「SS!?」 「ふえー。はやてさんと同じランクの人、初めて見た」 スバルもティアナも呆気に取られるしかない。 「そないに嫌わんと」 はやてが近づくだけ、昌浩は後ろに下がる。 「あれだけしつこくすりゃ、嫌われて当然だ」 階段の上から、子どものような甲高い声が降ってくる。 白い影が軽やかに跳躍し、昌浩の肩に腰かける。 ウサギによく似た動物だった。尻尾が長いのと、首周りに赤い突起が一巡しているのが、特徴だ。 「あれは物の怪のもっくん。守護獣だと思っておいて下さい」 「こら、リイン! もっくん言うな!」 「もっくんも久しぶりやな。元気にしとったか?」 「誰かさんが来なくなったおかげで、随分平穏に過ごせていたんだがな」 もっくんも背中の毛を逆立てて威嚇する。 「……随分嫌われてますけど、何かしたんですか?」 ティアナの問いに、リインは困ったように眉を寄せる。 「六課設立の際に、はやてちゃん、相当しつこく勧誘したんです。おかげで今じゃ、あんな調子で」 「もう、何が不満なんや? 昌浩君と十二神将、全員分の最新型デバイス。隊長の地位まで用意し取ったのに」 「だから、そういうところが嫌なんですよ!」 昌浩が怒鳴る。 最初は普通の隊員としての勧誘だった。時空管理局理局の仕事に興味はあったのだが、まずは陰陽師として一人前になってからと思い、昌浩は丁重にお断りした。しかし、昌浩が断るたび、まるで通販番組のおまけよろしく段々待遇が向上していったのだ。 昌浩は自分が半人前だと重々承知している。それなのに特別扱いされるのが、どうしても嫌だったのだ。 もし、はやてがあくまで一般隊員として昌浩を勧誘し続けていたら、折れていたかもしれない。 「六合、久しぶりだな。また貴殿と手合わせできるとは、光栄の極みだ」 シグナムが誰もいない空間に向かって話しかける。すると、まるで空間から溶け出すように長身の男性が現れた。夜色の外套をつけ、顔に黒い痣のような模様がある。 「彼は六合さん。彼らは隠形と言って、自分の姿を透明化できるので、ビックリしないで下さいね」 「彼ら? ということは、他にもいるんですか?」 「はい。昌浩君は十二神将……ようするに守護騎士を十二人連れているんです。厳密には、彼のお爺さんのものなんですけどね」 「「十二!?」」 夜天の書の主、八神はやての守護騎士でさえ、五人だ。単純な比較をすれば、倍以上の戦力だ。 「そりゃ、はやてさんが欲しがるわけだ」 スバルはもう開いた口がふさがらなかった。この家に来てから、まだ十分と経たないのに、まるでビックリハウスに長時間いたような気分だった。 「昌浩君、久しぶり」 「あ、なのはさん、お久しぶりです」 「こっちは私の部下のスバルとティアナ」 三人がそれぞれ挨拶する。 「それから……」 「なのはママ?」 緑と赤の瞳をした五歳くらいの少女、ヴィヴィオがなのはの後ろに隠れる。人見知りしているらしい。 「あ、もしかして、娘さんですか? ユーノさんとご結婚されたんですね。おめでとうございます」 昌浩が満面の笑みで祝福する。 「そう言えば、ユーノさんと声そっくりですもんね」 「……昌浩君、違うからね?」 なのはが微妙に引きつった顔で訂正する。 「おい、昌浩よ。なのはの娘だとすると、なのはは十五くらいでこの子を産んだことになるぞ。それはいくらなんでもまずい」 「あ、そうか」 もっくんの指摘に、昌浩はしまったという顔をする。 「ヴィヴィオは私とフェイトちゃんが預かってる子なの。実の子じゃないから」 やがて廊下の奥から、和服を着た白髪の老人が現れた。顔は皺だらけだが、背筋は伸び、老いを感じさせない。 昌浩の祖父、安倍晴明。稀代の陰陽師にして、表向きは企業グループの企業顧問。その実態は政治の中枢にすら食い込む実力者だ。 「こりゃ、昌浩や。お客さんを早く客間に通さんか」 「でも、じい様」 「無礼な孫で申し訳ない。ほれ、早くせんか」 昌浩は渋々はやてたちを客間に案内する。 背後から昌浩を鋭い視線で睨みつける者がいることに、昌浩は気がつかなかった。 宴会ができそうなほど広い畳敷きの部屋だった。そこに全員で腰かける。 ヴィヴィオは隣の部屋で子供の姿をした十二神将、玄武と太陰に遊んでもらっている。 一通りの自己紹介を済ませ、上座に座った晴明が口を開いた。 「さて、ご用件はすでに窺っております。調査の間、我が家はご自由にお使い下さい。我が孫、昌浩も協力を惜しみませんぞ」 「じい様。俺、何も聞いてませんよ?」 「当然じゃ。言ったら、お前、逃げるじゃろうが」 図星を刺されて昌浩は黙り込んだ。 「仲良くしような、昌浩君」 「よろしくな、昌浩」 はやては朗らかに、ヴィータがぎこちなく挨拶する。 「それじゃ、はやてちゃん。今日のところは役割分担だね」 「せやけど、なのはちゃん。それは私と晴明さんでやっとくから、皆はゆっくりしててええよ」 なのはは、しばし逡巡したが、はやての好意に甘えることにした。 「それじゃあ……青龍さん、いるんでしょ?」 なのはの呼び掛けに、青い髪をした長身の青年が現れる。十二神将、青龍だ。青龍は腰巻と、肩に布をたすき掛けにしているだけという格好だ。 できれば、もう少しちゃんと服を着て欲しいとスバルは思った。 「久しぶりだね、青龍さん」 なのはが軽やかな足取りで青龍に近づいていく。 「あの時の小娘か」 青龍がぎろりと睨みつける。 「やだな。私、十九歳だよ。もう、おと……」 「なのはちゃん! それ以上は駄目!」 シャマルが必死に止める。タイトルに『少女』がついているのだから、大人発言はNGだ。 なのはは軽く咳ばらいして言い直した。 「とにかく、もうあの頃の私じゃないよ。証明してあげよっか?」 なのはが笑顔で青龍を見上げる。親戚のお兄さんに久しぶりに会ったような、微笑ましい光景に見えないこともない。 「ねえ、ティア。なんか寒くない?」 「私の後ろに隠れないでよ!!」 しかし、なのはと青龍から発散される殺気が、体感気温を著しく下げていた。かつて、なのはに叩きのめされた経験のあるティアナの膝が、勝手にがくがくと震え始める。 「下らん。我らは人を傷つけてはいけない掟がある。戦いなどできるものか」 「大丈夫。あの時だって、青龍さん、私に傷一つつけられなかったでしょ?」 「貴様」 「それとも……負けるのが怖い?」 青龍の眼光となのはの笑顔が、正面からぶつかる。二人の殺気が一段と強まる。 過去になのはは青龍と戦い、苦汁をなめさせられたことがある。いつか雪辱を晴らす機会を狙っていたのだ。 その時、スバルの耳が、ある会話を拾った。 「久しぶりだね、ヴィータちゃん。そう言えば、新しいゲーム買ったんだけど、一緒にやらない?」 昌浩がヴィータを遊びに誘っているところだった。 「ま、昌浩君。私たちも一緒にいいかな?」 その場から逃げたい一心で、スバルは上ずった声で提案した。 昌浩はもっくんを肩に乗せたまま、自分の部屋にスバル、ティアナ、ヴィータを案内する。 「ここが俺の部屋だけど」 扉を開けると、そこは板間の部屋だった。 勉強机と、テレビとゲーム機。壁一面は本によって埋め尽くされていた。漫画はごく一部で、古くて難しそうな本ばかりだ。 「昌浩君、これ全部読んだの?」 「うん。でも、俺、じい様を超える最高の陰陽師になりたいから、まだまだ勉強しないと」 「あはは。私、陰陽師には、なれそうにないな」 「あんた、こういうの苦手だもんね」 顔を引きつらせるスバルに、ティアナが嫌みを言う。 「何よ。ティアならできるの?」 「そりゃ、あんたとは違うもの」 ティアナは自信満々に書棚の一冊を手に取る。本のページに目を走らせ、ティアナは顔を引きつらせた。 それは梵字で書かれていたのだ。ティアナは本を棚に戻した。 「昌浩君。日本語の本はないの?」 「それなら、こっちです」 昌浩が一冊の本を手渡す。 「……これ、漢字しか書いてないんだけど?」 「でも、日本語ですよ?」 「やっぱり、また今度にさせてもらうわ」 ティアナが本を棚に戻すと、肩にスバルが手を置いた。 「仲間」 「あんたと一緒にしないでー!」 「こら、二人とも、あんまり騒ぐな」 ヴィータがスバルたちをたしなめる。 「気にしないで。この家、防音はしっかりしてるから。それより、ヴィータちゃんが好きだったゲーム、新作出たんだよ」 昌浩がにこにことゲームソフトを見せる。 「お、おう」 昔からの付き合いなので、昌浩はヴィータを妹のように扱う。 「今、ヴィータ『ちゃん』って言ったよね?」 「うん。言った」 ひそひそとスバルたちが耳打ちする。厳しい副隊長が少年に子供扱いされる姿に、二人は目を丸くしていた。 (頼むから、少しは察してくれ) 部下二人の前で子供扱いされ、ヴィータは生きた心地がしない。このままでは、今後の仕事に差し障る。 「ほら、お菓子もあるよ」 「あ、ありがとう」 「あのヴィータ副隊長はどういう経緯で、昌浩君と知り合ったんですか?」 さすがに見ていられなくなり、ティアナが助け船を出した。 「あれは俺が小学生の頃だったかな」 昌浩はヴィータたちとの馴れ初めを話した。 まだ幼かった昌浩は、祖父の命令で妖怪退治に出かけた。その時、同じ妖怪を追っていたはやてたちと、ばったり出くわした。 それ以来、はやてがミッドチルダに行くまでの短い間だが、親しく付き合っていたのだ。なのはやフェイトとも面識がある。 シグナムだけは、それより前によく稽古に来ていたので知っていたのだが。 「でも、もっくんも人が悪いな。前から知り合いなら、教えてくれればよかったのに」 「いろいろ事情があるんだよ」 まさか千年以上前にタイムスリップした守護騎士たちと、昌浩の先祖が共闘したことがあるとは、口が裂けても言えない。 昌浩は祖父の知り合いなんだろうと勝手に解釈していた。 「おい、昌浩」 部屋に二人の人間が突然現れる。 ティアナと同じかやや年上の男女。赤い髪に白い鉢巻をした男と、まるで天女のような容貌の金髪の女。前者は十二神将、朱雀。後者は十二神将、天一だ。 「なのはとヴィヴィオが実家に戻るそうだ」 「分かった。すぐ行く」 昌浩たちは車庫に向かった。 車庫から出てきたのは黒塗りのベンツだった。後部座席になのはとヴィヴィオ、運転席には二十歳くらいの女性の十二神将、勾陣が座っている。 どうやら青龍との血みどろの一戦は避けられたらしい。 「それじゃあ、明日の朝、合流するから」 「別に急がんでええのに。まだほとんどすること無いんやから」 なのはと、はやてがドア越しに会話する。 「さすがお金持ち」 「こら、みっともないわよ」 スバルが好奇心丸出しで、ベンツの周りをうろうろする。 「フェイト隊長がいたら、きっと運転したがっただろうな」 「これ、運転する必要ないんです。自分で走りますから」 昌浩が妙なことを言って、左前輪のタイヤを示す。タイヤのホイール部分に、鬼の顔がついていた。スバルは少し趣味が悪いと思った。その時、鬼の目がスバルを見上げた。 「うわ! 動いた」 「これ、車之輔っていう、家に先祖代々使える車の妖怪なんです」 昌浩の前世が仲間にした時は、牛車の妖怪だった。牛車とは貴族の乗り物である。時代に合わせて姿を変え、現在ではベンツになっている。 勾陣が乗っているのは、形だけだ。 車之輔はスバルとティアナにぺこりと頭を下げ、なのはを送るべく出発した。 「おい、スバルとティアナと言ったな」 朱雀がやや横柄な感じで声をかけた。 「お前たちの部屋に案内する。ついてこい」 スバルとティアナが案内されたのは、屋敷の一角にある畳敷きの部屋だった。安倍邸の部屋は、ほとんど和室で構成されている。 「ここにいる間は、俺たちがお前たちの担当だ。自分の部屋だと思ってくつろいでくれ」 スバルたちより先に天一が正座する。その膝を枕に朱雀は寝そべる。 立ったままのスバルたちに、膝枕をしてもらっている朱雀が声をかける。 「どうした? ゆっくりしてくれ」 スバルたちは部屋に入ることなく扉を閉めた。 二人が恋人同士なのはよくわかった。しかし、客の前では自重して欲しい。 そこに晴明が通りかかった。 「すいません。担当替えてもらえますか?」 ティアナは冷めた声で言った。 半裸やら、人前でいちゃつく奴らやら、十二神将にもう少しデリカシーを求めても罰は当たらないだろうと、ティアナは思った。 目次へ 次へ
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Forceあとがき ■もうちょっとだけ第一部が続きます■ Forceももう3巻です! はやてがズブッと刺されたりはしてますが、フッケバインとの遭遇戦は一段落。 そして「トーマが救出されるまで」がForceの第一部。 なのでまだもうちょっとだけ第一部が続くんじゃよ。 「あれ?スティードどこ行ったの!?」という疑問も 次巻でちゃんと氷塊、もとい氷解(ヘイムダルによる変換ミス)。 リリィとアイシスもがんばります。 次巻もよろしくお願いします。
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・キラ・ヤマト 少将 / . . . . . . . . ヽ ,' . . . . . . . . . ヽ l . . i . . i i ; . . ト、 ヽ | . . i | . . | ! | i ', `ヽ ヽ l |、 |、 l、 l ム l! | ト; ', `ヾ. l ヽ ム !-'; ' ; i! | ,ヘ | l / lヽ ',. l ト、 l,,ゝ |ニ;ヘ ト、 |ィ;r'''う;ト、リj / l '; l. l ヽ ∨{´_,r''ヽ`ヘ! ヽ ! {r''´ j / / l ヽ | | ト、 ',_ゞ ノ, \ |` ̄ ̄´/ / l i l ヾ |∧ ヽヘ ヾ ̄´ ト、l ./ / ハ トj ′.'; ト`、 ト、ヽ l/ // ハ l '; | ヽ l ヽ ム ヽ `ヽ , _ ', イ / .| l リ ヾ .リ'ヘ ト、 ー;ニ´ ,.イ /|/`ヽリ ', `ヾ``ヽ、 /| ∨ / l l `丶、 _/ .l / ,r' l | / __ -''´ l `ヽ く- ..__... -‐''''´ └─-、 | 〉 ` ‐- 、__ l _l ./ ` ‐- 、 l '´ .| / ` ‐- 【所属】 ┗【帝国】【軍】【MS部隊】 【武器】 ┗【】 【スキル】 ┣ ┗ 【技能】 【】 ┣ ┗ 【魔術】 ┗ 【行動パターン】 ┗ 【その他の特徴】 ┣非公式な演習でISを相手にMSでお互いに大破まで持ち込む ┣それはMSの性能ではなくキラ・ヤマト自身の能力による所が大きい ┗搭乗機はフリーダムガンダム .
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キラ・ヤマト (Lv1) 職業:旧オーブの傭兵 説明 オーブの傭兵その1、10年間ラクスに頼りヒモ生活を送っていた カガリ達とのオーブ逃走組の生き残り
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森の訓練場で、星矢と紫龍が組み手を行っていた。氷河と瞬、六課メンバーたちはそれを遠巻きに眺めている。 隊長たちによる話し合いの結果、聖闘士の修行は安全上の問題から、やらないことが決定した。 聖闘士の修行は、個人の肉体強化と近接格闘戦に特化している。一方、これまでなのはがフォワード部隊に課した訓練は、魔法、体術、戦術、個人戦に集団戦、など多岐に渡る。 万能型が一芸特化型に、その分野で勝てるわけがなかったのだ。 とりあえず、お互いのことをよく知ろうという結論になり、最初に星矢と紫龍が組み手を披露してくれることになった。 「紫龍、お前とやり合うのはギャラクシアンウォーズ以来だな。今度も勝たせてもらうぜ!」 「ふっ。それはどうかな」 軽口をたたきながらも、二人の拳と蹴りが激しく入り乱れる。 「これ、後でスローモーションで見た方がいいね」 「そうだな。細かいところが、ちょくちょく見えねぇしな」 なのはとヴィータが観戦しながら、冷静に意見交換をする。ただ、星矢も紫龍もまったく本気ではない。速度もせいぜいマッハ二か、三くらい。試合でもないので、このくらいが安全に戦えるぎりぎりなのだろう。 「やや紫龍さんの方が劣勢でしょうか?」 「そうでもないよ」 エリオの意見を、フェイトがやんわりと否定する。 スピードを活かして攻める星矢を、紫龍は冷静にドラゴンの盾で防ぎ、反撃している。手数では星矢に劣っていても、その分、紫龍の一撃は正確で重い。 だが、怪我をしないよう言い含めてあるので、全身全霊の力を込める紫龍の廬山昇龍覇は事実上封印されている。奥義が使えず、紫龍は少しやりづらそうだ。 「ペガサス流星拳!」 一方の星矢は、紫龍が盾で防いでくれるので、思う存分必殺技を使っていた。 戦いは徐々に熱を帯びて行き、二人が加速していく。 やがて、紫龍の拳の下をくぐり抜け、星矢が背後に回り込んだ。 「しまった!」 「これで決まりだ。ペガサスローリングクラッシュ!」 星矢が紫龍を羽交い絞めにして、回転しながら跳び上がる。そして、そのまま頭を下に落下…… 「スト―――――――ップ!!」 なのはが展開したホールディングネットが、落下途中の星矢と紫龍を受け止めた。 「なんだよ。邪魔しないでくれよ、なのはさん」 組み手に水を指されて星矢は不機嫌そうだが、なのははそれどころではない。 「星矢君、今の技、何!?」 「俺の必殺技だけど?」 「どうして、あんな危ない技使うの!」 「別に心配いらないよ。これまで何回も使ってきたんだし」 「もっと安全な技を考えなさい!」 なのはの剣幕に、星矢は首をすくめる。 ペガサスローリングクラッシュは、相手の頭を地面に叩きつける荒技だ。しかし、その際に、離脱が少しでも遅れれば、技をかけた本人の頭も一緒に砕く危険がある。少なくとも模擬戦で使う技ではない。 元々相打ち覚悟で使った技なのだが、そんな技を平然と使う星矢が、なのはには信じられなかった。 「あんな風に怒るなのはさん、珍しいね」 「まあ、なのは隊長の教育方針と真逆の戦い方だからね。あんな無茶な技、いきなり見せられたら、取り乱すのも無理ないんじゃない?」 スバルとティアナが、怒っているなのはからなるべく距離を取りながら言った。 一足先にティアナは映像データを分析してみたが、聖闘士の戦い方は、とにかく危なかった。 背後に回り込む時に、紫龍の拳が星矢の頭上すれすれを通過している。もし、星矢がかがむのが少しでも遅れていれば、紫龍の拳はカウンターで星矢の顔面を直撃していただろう。どうやっても怪我は免れない。 修行方法も含めて、聖闘士に安全という概念はなさそうだ。あるいは、これまで格上の相手と戦い過ぎて、捨て身の戦法が癖になっているのか。 そんな戦いを繰り返して、よく無事でいられるものだと、ティアナは妙な関心をしてしまう。 「でも、星矢君もよく大人しく聞いてるね」 星矢は、なのはの部下ではない。負けん気の強そうな外見からして、口論になるのではないかと心配していたのだが。 「ああ、それはね」 スバルの声が耳に入ったのか、瞬が答えてくれた。こうして間近で見ても、瞬の顔立ちは綺麗な女の子のようだった。本物の女として、スバルは若干劣等感を感じた。 「星矢の師匠は、魔鈴さんって言う女の聖闘士だったんだ。多分、年上の女の人に怒られると、修行時代を思い出しちゃうんじゃないかな」 「聖闘士って、女の人でもなれるんですか?」 「本来男がなる者だから、数は少ないけどね」 瞬の修行仲間にも、カメレオン星座のジュネと言う女聖闘士がいる。ただし、女性が聖闘士になる場合、女であることを捨てて常に仮面をかぶる必要がある。 「でも、こっちは強い女の人が多いんだね。ビックリしたよ」 瞬に言われて、スバルとティアナは微妙な顔をした。ミッドチルダでは、優秀な魔導師に、年齢も性別も関係ない。当たり前のことに感想を持たれても、どう反応していいかわからなかった。 なのはの説教が一段落したのを見計らない、ヴィータがハンマー型デバイス、グラーフアイゼンを肩に担いで立ち上がった。 「どれ、そろそろ行くか。おい、氷河か瞬、どっちか相手をしてくれ」 「ヴィータ副隊長がやるんですか? それなら私が行きます」 スバルが名乗り出た。 「そうか。じゃあ相手は……瞬、頼めるか?」 氷河は我関せずといった様子だったので、ヴィータは瞬に頼んだ。 「わかりました、ヴィータさん」 瞬はわずかにためらう素振りを見せたが、大人しく従う。 どうも星矢のせいで、ヴィータは聖闘士たちに最年長だと誤解されたようだ。若い隊長を、経験豊富な副官が補佐していると言ったところか。子供扱いされるのも腹立たしいが、これはこれで面白くない。 バリアジャケットを装着したスバルが、開けた場所で瞬と向かい合う。 聖闘士たちに魔導師の実力を知ってもらう為にも、スバルの責任は重大だった。 一方の瞬は生来戦いを嫌う。模擬戦とはいえ戦うことに、ためらいを覚えているようだった。 「瞬君、思いっきり行くよ!」 ちゃんと戦ってくれなければ、訓練にならない。瞬を奮起させようと、スバルは闘志を漲らせる。 なのはが開始の合図をしようと左手を上げた時だった。風を切り、何かがスバルの頬を掠めていった。 「えっ?」 反射的に首を傾けていなかったら、眉間を直撃していた。瞬の腕は動いていないのに、右手のネビュラチェーン――攻撃を司るスクエアチェーン――が勝手に動きだし、スバルを狙ったのだ。 「……瞬君?」 スバルの喉から固い声が出る。 「スト―――――――ップ!」 なのはが叫び、フープバインドが瞬を拘束する。 「駄目だ、なのはさん!」 瞬の警告と同時に、スクエアチェーンがなのはに矛先を向ける。 「危ない、なのは!」 フェイトがバルディッシュで、鎖を弾く。 「てめえ、どういうつもりだ!」 瞬を取り押さえようと、ヴィータがアイゼンを構えて走る。ティアナたちも不測の事態に、一斉にデバイスを起動する。 「僕に近づかないで!」 防御を司るサークルチェーンが瞬の足元に螺旋を描いて展開する。ヴィータが範囲内に踏み込むなり、鎖が波打ちアイゼンと火花を散らして激突する。 「ちょっと待った!」 星矢と紫龍が、ヴィータの前に立ち塞がる。氷河も、なのはとフェイトを止めていた。 「頼むから、敵意を収めてくれ」 星矢に懇願され、ヴィータたちは半信半疑ながら言われたとおりにする。それだけでネビュラチェーンは地面にパタリと落ち、瞬の腕へと戻っていく。 「ごめんなさい。僕のネビュラチェーンは、敵意に反応して自動で迎撃するんだ」 アンドロメダの防御本能は聖衣で一番と言われている。 「でも、驚いたな。ネビュラチェーンが、ここまで過剰な反応を示すなんて……」 魔法には非殺傷設定があり、スバルたちは常に実戦さながらの真剣さで模擬戦を行っている。瞬の予想を上回るスバルの闘志を、ネビュラチェーンは本物の敵と、しかも相当な脅威と認識したようだ。 「なのは、瞬の野郎は模擬戦に参加させないようにしよう」 ヴィータが努めて冷静に言った。 「そうだね」 なのはは疲れ切った顔で首肯する。 「こんなんで、聖闘士と連携なんてできるのかな」 たった二回模擬戦をやっただけなのに、なのはの心労は頂点に達しようとしていた。 聖闘士と六課フォワード陣が合同で訓練している頃、はやては一人車を飛ばして、地空管理局地上本部に向かっていた。 はやてとて、一日や二日でコスモを会得できるなど考えていない。ただ聖闘士たちを引き止めるのと、聖闘士について知ることができればと提案しただけだ。 その結果、訓練場でどんなことが起きたか、はやては知らない。 『主はやて』 シグナムから通信が入った。 『今、アギトの取り調べを行っていたのですが、取引を持ちかけられまして』 アギトは重要参考人として、時空管理局に拘留されている。スカリエッティのアジトを知る最大の手がかりだ。 「どんな?」 『情報が欲しければ、スカリエッティ逮捕に自分も協力させろと言うのです』 はやては人差し指を唇に当てて考え込む。 アギトの狙いは、ゼストを殺した犯人に対する復讐だろう。 時空管理局では、どんな犯罪者だろうと法の裁きに委ねる。抵抗が激しい場合などは仕方ないが、さすがに私刑を認めるわけにもいかない。 「しばらく保留にしといて。どうせ今のままじゃ対抗策もあらへんし」 『わかりました』 シグナムからの通信が切れる。 スカリエッティのアジトの場所が判明しても、今のままでは攻め込めない。敵が次の行動を起こす前に、こちらの準備が間に合えばいいのだが。 地上本部に到着する。そこは惨澹たる有様だった。システムの復旧も、がれきの撤去もまだ終わっていない。崩れ落ちた塔が、時空管理局の敗北を印象付けていた。 潜入していたドゥーエによって、レジアスも最高評議会の三名も殺されてしまった。現在、伝説の三提督の元で組織の立て直しが計られているが、まだまだ混乱している。 指定された部屋へと向かいながら、はやてはまるで胃に鉛を流し込まれたような気分になった。どう転んでも、愉快な話にはならないだろう。せめて徹底的に最悪な予想をして、その時に備える。 覚悟を決めて部屋に入ると、中では意外な人物が待っていた。 「やあ、はやて」 明るい緑の長髪に、白いスーツを着こなした伊達男がソファに座っている。 「アコース査察官?」 「ロッサでいいよ。他に誰もいないしね」 ヴェロッサ・アコース。聖王教会の騎士カリムの義弟で、やり手の査察官だ。はやてとの付き合いは長く、妹の様に思ってくれている。 テーブルの上には、ロッサの手作りケーキと紅茶の入ったポットが置かれていた。はやてが向かいのソファに腰掛けると、アコースは紅茶とケーキを差し出す。 「そう言えば、今朝方スカリエッティから連絡が来たよ。ナンバーズ改め、ゾディアック・ナンバーズだそうだ」 「相変わらず自己顕示欲の強い男やな」 新しい名前をわざわざ教えてくるスカリエッティに、はやてはうんざりとした表情を浮かべた。 はやては生クリームがたっぷり乗ったケーキを一口食べた。甘い風味が口の中に広がり、嫌な気分を少しだけ和らげてくれる。 しばらくカチャカチャと食器を鳴らす音だけが狭い室内に響く。はやてがケーキを食べ終わると、アコースが口を開いた。 別におやつを食べに来たわけではないので、本題はこれからだ。 「さてと……多分、君のことだから予想はしてるだろうけど……」 いつもは愛想のいいアコースの歯切れが悪い。はやてがケーキが食べ終わるまで待ってくれたのも、気遣いだけではなく、切りだしづらい内容だからだろう。 「機動六課は、本日付でスカリエッティ及び、ゾディアック・ナンバーズの捕縛任務を担当してもらうことになった。僕はアドバイザーとして、君の補佐に就く」 アコースは一旦間を置いて、深刻な様子で言葉を続けた。 「この任務が与えられたのは、機動六課だけだ。ガジェットならいいが、ナンバーズ逮捕に他の部隊の協力は得られない」 「そっか」 濃い目に入れられた紅茶で喉を潤し、はやてはあっさりと言った。 「アースラの方はどないなった?」 はやては新しい六課本部として、廃艦寸前のアースラを使用したいと申請していた。 「過酷な任務の代わりと言ってはなんだが、六課にはかなりの権限が与えられた。申請すれば、大抵の設備、機材は優先的に使わせてもらえる。その気になれば、新型艦でも徴用できるけど?」 「艦隊戦をやるわけじゃなし、アースラでええよ」 はやては遠慮しているわけではない。廃艦寸前のアースラならすぐに乗り込めるが、他の艦では手続きに時間がかかる。 はやては退院したロングアーチスタッフにメールを送り、アースラの機動準備をするよう連絡する。 「後、それからこれを」 「これは……」 ロッサが転送してきたデータを見て、はやては目を丸くした。 「三提督からのプレゼントだ。君も噂くらいは知ってるだろう。魔法文明の黎明期、数多の魔導師を再起不能に追い込んだ禁じられた魔法だ。特別に使用が許可されたよ」 正直、これでもまだゾディアック・ナンバーズには届かないし、使用には大きすぎるリスクを伴う。だが、攻略の足がかりにはなるだろう。 「この決定は、一足先に六課後見人たちに伝えられた。聖王教会はこれに異議を唱え、正式に抗議文を作成中。本日夕刻までには時空管理局に届けられるはずだ」 他の六課後見人たち――フェイトの義理の家族であるリンディとクロノ――も上申書を作成中。クロノに至っては、部隊を引きつれて六課に合流するとまで言っている。 「いやー。愛されとるな。私ら」 「茶化さないでほしいな。僕らは真剣なんだ」 普段は飄々としているロッサだが、さすがに余裕がないようだ。おそらく、後見人たちに先に決定内容を伝えたのも、ロッサの独断だろう。与えられた命令をどうにかして覆そうと、手を尽くしてくれている。 「はやては怒ってないのか? こんな理不尽な命令を与えられて」 当事者であるはやてが任務をあっさり受けいれていることに、ロッサはひっかかりを覚えていた。 「それはしゃあないな。私が上でも、それしか思いつかへん」 不満がないと言えば嘘になるが、ゾディアック・ナンバーズと交戦してどうにか撃墜を免れたのは、なのはとフェイトくらいだ。 ゾディアック・ナンバーズに数で対処しても、いたずらに犠牲者を増やすだけ。ならば、少数精鋭で挑むしかない。聖闘士たちが六課に預けられたのも、それを見越してのことだろう。 よしんば、六課と聖闘士たちが敗北したとしても、敵の数を少しでも減らし、得られた戦闘データから対抗策を構築できる。後は万全の態勢を整えた時空管理局の精鋭たちを送り込み制圧すればいい。 捨て駒にされる方はたまったものではないが、これが一番確実な作戦だ。はやてとしては、むしろこんな作戦の責任を取らされる伝説の三提督の方に同情してしまう。 ロッサはアドバイザーという形ではやての補佐に就くが、実際はナンバーズのデータを時空管理局に持ち帰るのが任務なのだろう。 「それより、よくロッサがアドバイザーに就くのを許可したな?」 こういう任務なら、普通、六課のメンバーに思いれのない人物をつける。 「この任務は命がけ……というより、命をどぶに捨てるようなものだからね。ちょっと強行に立候補すれば、誰も反対しなかったよ」 その時の様子を思い出したのか、ロッサがようやく苦笑を浮かべた。 おまけにロッサのレアスキル、無限の猟犬は複数の戦場の情報を収集するに適している。まさに渡りに船だったのだろう。 「大丈夫。私らは負けへんよ」 ロッサを励まそうと、はやては茶目っ気たっぷりに片目をつぶって見せた。 「勝ってしまっても問題なんだ」 はやての励ましは逆効果だったらしく、ロッサはますます深刻になってしまう。 「君たちの勝利の先には、限りなく黒に近い、灰色の未来しか待っていない」 ゾディアック・ナンバーズは時空管理局を転覆させかねない戦力だ。もし勝利してしまえば、六課はそれ以上の戦力を保持していることになる。 機動六課が通常の部隊だったら、まだ道があった。部隊を解散後、隊員を別々の部署に配置し、メンバー同士が互いの抑止力となるよう仕向ければいい。 だが、預言阻止の為に、反則ギリギリで集められた六課のメンバーは、ほとんどが縁故採用だ。隊長たち三名が無二の親友であることを知らない者はおらず、隊員間の信頼も厚い。もし、誰か一人でも時空管理局に叛意を持てば、全員が呼応すると考えてしまう。 そんな危険な因子を飼いならせる組織はない。軟禁状態で閉じ込められるか、死ぬまで危険な戦場に送り込まれ続けるだろう。 室内を沈黙が満たす。どちらもかける言葉が見つからなかった。 「…………はやて」 はやてが退出しようかと考えた時、沈黙を破りロッサが口を開いた。ここまで真剣なロッサは、はやても知らない。 「これは、査察官ではなく友人としての意見だ」 ロッサは深呼吸し、一息に言った。 「逃げよう」 「へっ?」 ロッサの言葉に、はやては面食らった。 「スカリエッティは狂った科学者だが、無差別に人を殺すような真似はしない」 地上本部襲撃の際の声明にも、命を愛しており、無駄な流血は望まない旨の発言があった。どこまで信用できるかわからないが、行動から一面の真実はあるだろう。 「もし、これで時空管理局が敗北するようなことがあっても、スカリエッティの天下になるだけだ。勝ち目のない戦で、無駄に命を散らす必要はない」 はやては冗談で返そうかと思ったが、雰囲気がそれを許さなかった。ため息をついて、こちらも真面目に返事をする。 「私らの故郷にこういう言葉がある。“一夜の無政府主義より、数百年に渡る圧政の方がまし”ってな」 社会を維持するうえで、それほど法と秩序は必要不可欠だ。 「まあ、スカリエッティが支配者として君臨してくれるなら、最悪よりはましやね」 しかし、きっとそうはならないだろう。スカリエッティは自己顕示欲の塊だが、その本質は科学者だ。あくまでも自分の研究にしか興味がない。 スカリエッティがもし時空管理局を打倒したら、力と権力を望む者に武器を提供し、得られた資金で望むままに研究を行うだろう。 「時空管理局は、次元世界に存在し続けないといけないんや」 数多ある次元世界の中には、時空管理局の後釜を狙う者たちが腐るほどいる。それら野心家たちを、時空管理局はこれまでどうにか抑えてきた。 もし時空管理局が敗北、もしくは致命的なダメージを受ければ、野心家たちは一斉に蜂起し、次元世界を股に賭けた大戦争が勃発するだろう。 おそらく天文学的な数の死者と、たくさんの世界が滅ぶ。その中には、はやての故郷も含まれるかもしれない。それだけは絶対に避けねばならない。 「大体逃げるって、そんな無責任なこと言ったら、カリムが泣くよ?」 「僕は元々不真面目な査察官だからね。友の命と、組織のどちらかを取れと言われれば、友人を取る。義姉さんもきっとそれを喜んでくれる」 ロッサははやてにそっと手を伸ばす。 「もし君たちが逃げるなら、僕が手を貸そう。僕の持てる力を全て駆使して、君たちを次元世界の彼方まで逃がしてみせる」 言葉に込められた思いは、あまりにも切実で真剣だった。 ロッサの指がはやての頬に届く瞬間、はやてはわずかに身を引いた。それだけで、ロッサの指ははやてに届かなくなる。 それが答えだった。 ロッサは残念そうに目を伏せ、口調をいつものものに戻した。 「離隊したい者がいたら、言ってくれ。隊長クラスは無理だと思うが、なるべく善処しよう」 「ありがとうな」 スターズやライトニングの新人たちが承諾するとは思えないのだが、選択肢だけは与えておきたかった。たとえ、ただの自己満足であったとしても。 はやてが退出するのを、ロッサはやるせない思いで見送った。 六課隊舎に帰りがてら、病院に寄る。 門のところで、白い包帯を腕や額に巻いたシャマルとザフィーラが待っていた。 「お待たせ」 助手席にシャマルが、後部座席にザフィーラが座る。 怪我が完治するまで静養していて欲しかったが、現状ではそうもいかない。本人たちの強い希望もあって、早速仕事に復帰してもらうことになった。 はやてはアクセルを踏み込み、車を発進させる。 「はやてちゃん、何かあった?」 シャマルが尋ねた。いつもと様子が違うことを、早々に見抜いたようだ。 任務の内容が堪えたのは確かだが、意外だったのはロッサの最後の言葉だった。込められた思いが友情だろうと、妹に向けられたものであろうと、あれだけ真剣に思われたら、心が揺れるというものだ。 これまでの人生の中で、はやてが異性から告白されたことは何度もある。中には、付き合ってもいいかなと思える異性もいた。 しかし、はやては贖罪の道を歩くと決めている。茨の道に、他人を巻き込むことはできない。 かつて一人ぼっちだったはやてに、守護騎士という家族ができた。なのはとフェイトというかけがえのない友もできた。機動六課という信頼できる仲間たちもできて、これ以上望むのは贅沢だと思ってしまうのだ。 はやてはどう答えようか逡巡し、 「なあ、シャマル、ザフィーラ。私のことは気にせんと、幸せになってええんよ?」 思わず本音が漏れてしまった。 贖罪の道を、守護騎士たちは共に歩いてくれる。だが、かつて何も知らなかったはやてを救おうと、守護騎士たちが罪を犯したのだ。夜天の書の主として、今度ははやてがその罪を背負ってもいいと考えていた。 以前から、守護騎士たちがもっと自分勝手だったらいいのにと思う時があった。はやてのことなんか気にせず、自分の幸せを追求して欲しい。それこそ、守護騎士たちが恋人でも作って幸せになる姿を見られるなら、それだけでははやての人生は報われる。 これまでずっとつらい思いをしてきた守護騎士たちに、それくらいの褒美はあっていいはずだ。 「はやてちゃん」 シャマルの声は、冬の妖精の吐息のように冷たかった。 (……久々にやってもうた) 本気で怒っているシャマルに、はやては怯える。 「私ね、幸せを分かち合うって、結構簡単にできると思うんだ」 てっきり、シャマルのお説教が始まるかと思いきや、淡々とそんなことを言いだした。 親しい人が幸せそうにしていれば、自然とこちらも幸せな気分になれるものだ。 「でもね、苦しみを分かち合い、共に乗り越えていくことは、本当の家族にしかできない」 一緒に不幸の泥沼に沈むのではなく、共にもがき、這い出すことができるなら、それはどんなに素敵なことだろうか。 はやては勘違いに気がついた。シャマルは本気で怒っているのではなく、本気で悲しんでいたのだ。 「私は、みんなを家族だと思ってる。だから、悩みがあるなら、相談に乗る。弱音でも愚痴でも、いくらでも言ってくれていい。でもね、その言葉だけは言わないで。家族の一人に罪を押し付けて、平気でいられるように、私たちが見える?」 はやてがバックミラーを覗くと、ザフィーラがシャマルに賛同するように、目を寂しげに細めていた。 こういう時に、ザフィーラが狼の姿をしているのは、反則だとはやては思った。これでは懐いているペットを、勝手な理由で捨てようとしている飼い主のようではないか。 「一緒に乗り越えて行こう、はやてちゃん」 シャマルの優しさに、はやては鼻の奥がツンとなるのを感じた。 「……ごめんな」 「……主、謝らないでください」 ザフィーラが言った。 「せやな。ここはありがとう、言うところやったな」 はやては、涙がこぼれないように。ほんの少しだけ上を向いた。 こんなに素晴らしい家族を与えてくれた神様に、心から感謝したいと思った。 目次へ 次へ
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このページでは、18禁恋愛シミュレーションゲーム作品『とらいあんぐるハート3 ~Sweet Songs Forever~のおまけの りりかるなのは とは何かを説明します。 ゲームクリア後(とらいあんぐるハート3 ~Sweet Songs )のおまけシナリオとして収録された「CMスポット」において新番組として予告された架空のテレビアニメ作品のタイトル。 本編のパロディ的な内容で嘘企画であると明記されており、 後に実際に制作された作品である2.~4.のいずれとも全くの別物である。 1.のファンディスク『とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱』に収録されているミニシナリオ。 狭義にはこの作品が4.の原作にあたるが、実質的には1.をはじめとしたとらいあんぐるハートシリーズの後日談にあたる作品であり 4.とは全くの別物である。 1.のOVA版に先行して発売されたミュージッククリップ集『とらいあんぐるハート ~Sweet Songs Forever~ サウンドステージVA』に2.のオープニングアニメという名目で収録されている短編アニメ作品。なお、この作品及びOVA本編は4.と同一スタッフによる制作である。 1.~3.からスピンオフし、世界設定を大幅に変更した上で制作されたテレビアニメ作品。以下のシリーズ3作品からなる。 なお、18禁恋愛シミュレーションゲーム作品 『とらいあんぐるハート3 ~Sweet Songs Forever~』 については、別記で紹介する 魔法少女リリカルなのはTPOへ戻る
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ウェンディとノーヴェ、そしてゼストの命を奪った同じエインフェリアという存在に怒りを覚えたのか… それともただ単にアドニスの発言に苛立ちを覚えただけなのか?ブラッドヴェインには分からない。 分からないが今は目の前の“敵”であるアドニスを片付ける、それだけはハッキリしていた。 「まぁいい、俺は暴れられればそれでいいからな!!」 ブラッドヴェインはその強靭な爪でアドニスに襲い掛かり引き裂こうとしたがアドニスは上空に逃げこれを回避、 反撃としてソニックエッジと呼ばれる大きく振りかぶり、全体重を乗せて振り払う攻撃を急降下しながら仕掛ける。 だがブラッドヴェインは口から高熱の炎を放ちこれを迎撃、周囲に高熱を響き渡らせると 翼を広げ飛翔、だがアドニスは炎に耐え抜き再度ソニックエッジを振り払いブラッドヴェインの胸元を深く切りつける。 だがブラッドヴェインは引く事無く右の爪を振り払いアドニスは長い刀身を盾に防ぐと 本命である尻尾による殴打がアドニスの頭部に見事直撃、大地に叩きつけられ巨大なクレーターを作り出した。 「くたばったか?」 「この程度で殺れれば苦労はない…」 ルーテシアの言葉通りクレーターの中心からアドニスが立ち上がり雄叫びのようなモノをあげていた。 そしてアドニスは目の前に存在する圧倒的な力の前に興奮の坩堝と化し最後の一撃とばかりに大きく振りかぶり、 足下に魔法陣を張ると刀身は赤く光る炎熱に包まれた、それはエーレンが使用したソウルエボケーションの構えだった。 「このソウルエボケーションで地獄に叩き込んでやるぜぇ!!」 アドニスは躊躇無く飛び出し真っ直ぐブラッドヴェインに突っ込んでくるとイグニートジャベリンを撃ち抜き牽制 アドニスは刀身を振り抜き撃ち落とし更に押し迫り、ブラッドヴェインは続いてファイアランスを放ち 更に牽制を仕掛けるがその事如くを撃ち落としていく。 そして目の前まで到達すると大きく振りかぶり振り下ろす体勢をとるアドニス。 「てめぇの死を受け入れろ!!」 だがピタリと動きを止めるアドニス、その腕にはレデュースパワーで縛られており 目の前、ブラッドヴェインの肩に乗るルーテシアが左手を向けていた。 「てってめぇの仕業か!!!」 「気付かない変態人形が間抜けだっただけ…」 ルーテシアは見下ろす目線で毒を吐くと今度はブラッドヴェインがプリズミックミサイルを発射、 今度は弾かれずその身につき刺さるとアドニスの顔色が紫に変化し全身は電気を撃たれたかの様に麻痺 一部鎧も凍結していた、どうやらプリズミックミサイルの状態異常効果によるモノである。 「ヤベェ、イっちまう!イっちまうぜぇぇ!!」 「………早く…とどめを刺して、気持ち悪いから」 「そうだな…」 ブラッドヴェインは早速巨大な魔法陣を張り詠唱を始める、 その間ルーテシアは再度アドニスにレデュースパワー更にレデュースガードを使用し、 ブラッドヴェインのグラビディブレスの効果を高める処置を行った。 そして――― 「グラビディブレス!!」 放たれたグラビディブレスの前にアドニスは矮小に等しく簡単に撃ち込まれ周囲を巻き込んで地面へと激突、 大きなクレーターを形成すると、その中心にいるハズのアドニスは姿を確認できない程破壊されていた。 「ご苦労様、ブラッドヴェイン」 「まぁ、楽しめた方か…」 だがアドニスのあの性格には正直ついていけないと思うブラッドヴェイン。 それに対しては同感であると感じざるを得ないルーテシアだった。 …カノンはオットーが張った結界に閉じ込められていた、ディエチの巧みな誘導でビルに追い込み、ガリューの格闘がカノンの行動を制限させた結果である。 オットーの結界には魔力の動きを阻害する効果がある、しかしカノンは未だ余裕に満ちた表情を浮かべていた。 「この程度の結界で私を止められるとでも思っているとはな…」 カノンは動じる事無く魔力を解放、周囲に稲光が走り床を砕き壁ガラスを破壊し始める。 サンダーストームと呼ばれる雷の広域攻撃魔法で結界を内側から破壊、ビルは瞬く間に瓦礫と化し崩れていく。 その瓦礫が舞う中でガリューはカノンに近付き、両手肘を刃に変え接近戦を仕掛ける。 ところがカノンは魔法障壁を張って猛攻を防ぎ、右手をガリューに向けると炎の広域攻撃魔法であるエクスプロージョンを発動、 大爆発と共にガリューを吹き飛ばし対角線にあったビルに叩きつけた。 その頃ディエチはリディアと牽制し合っていた、弓と銃の違いはあるが共に遠距離支援型、 リディアはカノンの支援、ディエチはリディアの支援の妨害を行い、リディアはディエチに切り替え攻撃、 するとディエチもまたリディアに照準を絞り込み、互いに一歩も譲らない攻防戦であった。 「こっちに狙いを絞られたのはいいけど…」 超重量のイノーメスカノンの振り回すのは流石にキツく幾ら誘導性の高いエネルギー弾を撃ち放っても限界がある。 となれば小回りが利く銃に切り替えた方が無難…そう考えた矢先、リディアの猛攻を受け左肩、右足を貫かれ 右こめかみと頬、左わき腹を掠める、これ以上の被害は被る訳にはいかない、 そう考えたディエチはイノーメスカノンを盾にして追撃を防ぎ、 更に破棄して腰に添えた銃、スコーピオンに手を伸ばし取り出すとすぐさま撃ち鳴らす。 弾丸は実弾を使用、しかし自身のISであるヘヴィバレルを用いて弾丸に薄いエネルギーの膜を張る事により操作が可能となり 誘導性のある実弾としてリディアが放った矢を迎撃、更には肩や足を撃ち貫いた。 「これならイケる!!」 勝機を見たディエチは次に徹甲弾が詰まったマガジンに切り替え、ストックを伸ばし足を肩幅ぐらいに広げ脇を絞め構え撃ち始める。 周囲にけたたましい音を奏でながら撃ち出された徹甲弾はリディアを完全に捉え手足、胴体、頭を貫き蜂の巣と化していた。 だがそれでも動けるようで、その頑丈さに呆れ果てるディエチ、 しかしリディアの体から稲光が走りショートしている様子を見せており致命的である事は明白 ところがディエチはリディアの姿を見て一抹の不安を覚える、…そしてその不安は現実のモノとなった。 「今の攻撃で…倒せなかった事を…後悔なさい!!」 リディアは決意を胸に弓をオットーに向けグランブルガストを撃ち放つ、 それと同時にオットーに狙いを変えた事に気が付いたディエチもまたリディアに向け残りの徹甲弾を撃ち 頭部を直撃、完全破壊したが間に合わず二十本の矢がオットーへと迫っていた。 「オットー!逃げて!!」 ディエチの悲痛な叫びが辺りに響き渡る中、それをかき消すかのようにリディアは爆発して消滅、 一方狙われたオットーはディエチの叫びを耳にしたのかレイストームを放ち迎撃するが、 全てを迎撃する事が出来ず左肩胸、右股腕、咽を貫かれ串刺しと化し前のめりで倒れその儚い命を失った。 「オットー……」 アドニスを撃破しブラッドヴェインと共に後を追っていたルーテシアはオットーが倒れていく姿を目撃 共に暮らし長く過ごしてきた親友ともいえるオットーの死、それはルーテシアの凍り付いた感情を溶かすには十分であった。 だがこの感情、ぶつける相手は既にディエチの手によって葬られた、 とその時であるルーテシアの目にカノンの姿が映りビルに激突していたガリューの下へ向かおうとしていた。 「ガリュー!起きて戦って!!」 ルーテシアは怒りのままガリューに武装化を命じ、ビルからガリューが飛び出す姿を目撃すると、 牽制としてルーテシアはカノンの足下付近に攻撃範囲が広いバーンストームを次々に撃ち カノンが動ける範囲を狭めガリューがバーンストームに合わせる形で接近戦を仕掛ける。 だがカノンは魔法障壁を張りガリューの猛攻を防ぐとグラシアルブリザードを放ちガリューを逆に追い詰め、 撃ち放たれたグラシアルブリザードの氷の刃はガリューの身を突き刺し見る見るうちに凍結しオブジェと化した。 「砕け散るがいい!!」 続いて撃ち放ったエクスプロージョンによってガリューは粉砕、その光景を目の当たりにしたルーテシアは大粒の涙を零す。 …ルーテシアにとってガリューはただの相棒では無い、共に戦ってきた戦友であり、 母の温もり、残り香を感じるルーテシアにとって無くてはならない存在であった。 だがそのガリューが無惨にも砕け散りその姿を嘲笑うカノン、怒り…いやルーテシアの中に憎悪という今までに無い感情が生まれ その感情はルーテシアにある召喚虫を使わせる引き金となった。 「白天王!!!」 呼び出された召喚虫白天王、色は白く背中には半透明の膜状羽を持ち、その大きさはブラッドヴェインと並ぶ巨体の持ち主である。 ルーテシアは容赦なく白天王に命令を促しその巨腕が振り下ろされ、カノンはバリアを張って攻撃を受け止める。 その周囲は大きくへこみクレーターを作り出す中、白天王は何度もバリアの上から叩き付け クレーターは亀裂が走り地割れとなって周囲の建物を飲み込んでいく。 「こんなモノで終わりだと思わないで!ブラッドヴェイン!!」 白天王が一歩引くと今度は命令を受けたブラッドヴェインが襲いかかり、クレーターを削るように下から上へと引き裂き 宙には削れた大地と共にカノンが投げ出され、姿を確認したルーテシアはブラッドヴェインに命じ瓦礫と共にその巨大な尻尾で薙払った。 その破壊力は強大で薙払った瓦礫は周囲の建物や木々を破壊し、その一つにカノンの姿もあった。 「燃え尽きるがいい!!」 ブラッドヴェインの高熱を帯びた炎が周囲を巻き込みながら迫り来るが、カノンは立ち上がり威力を高めたエクスプロージョンで相殺、 巨大な炎の壁が立ちふさがりブラッドヴェインを覆い隠すと、カノンは足下に巨大な魔法陣を張り右手を炎の壁に向け詠唱を始める。 「絶望の深遠に揺蕩う冥王の玉鉾、現世の導を照らすは赤誠の涓滴!!」 そしてカノンの最大広域攻撃魔法であるグローディハームが発動、魔法陣の中心部分から毒々しい液体が伸び炎の壁を貫きブラッドヴェインにまとわりつく、 次の瞬間受けた魔法の部分とルーテシアを振り払うように吹き飛ばした、すると受けた場所が徐々に溶けていき一部は白骨化し始めていた。 「このまま溶けて消えるがいい!!」 「ブラッドヴェイン!!」 「来るな!…奴の相手はこの俺様だ!!」 ブラッドヴェインはルーテシアに制止を促し徐に魔法陣を張り詠唱を始める。 すると魔法陣から黒い球体が姿を現し中では稲光が走り更に巨大化、 広域攻撃魔法の準備を整えると自身の最後の一撃を放った。 「グラビティブレス!!」 ブラッドヴェインは最後の一撃を放った後に完全に白骨化、音を立てて崩れ去っていく中、カノンは結界を張り防御に備える。 だがブラッドヴェインの渾身の魔法はカノンの結界を破壊し飲み込まれ黒い球体の中では稲妻が四散しカノンの身を驟雨の如く打ち付けていた。 「ブラッドヴェイン……白天王!トドメをさして!!」 撃ち放たれ消えていったグラビティブレス、だがその中心にはカノンが辛うじて立っている姿があり、 ルーテシアはその身を確認するや間髪入れず白天王に命令、爆発的な加速と共に右拳を振り下ろし更に左拳、 そして何度も叩き付け巨大なクレーターを生み出すと上空へと飛翔 腹部に存在する水晶体から強力な魔力砲を発射、クレーターを吹き飛ばしその周囲を瓦礫に変えカノンは跡形も無く吹き飛んでいった。 その上空、白天王の肩に乗るルーテシアは涙を拭き気丈を振る舞う。 日に使役を二体失う…しかもその一体はルーテシアにとって大切な存在、 ルーテシアは白天王を送還した後、ただ一人…空を向いて佇んでいた。 場所は変わり此処ゆりかご内では一人の不死者が彷徨いていた。 名はグレイかつてレザードに捕縛されグールパウダーを飲まされ不死者となったが その類い希なる精神力により自我を持つ不死者となったのだった。 外の様子はおおよそ見当はついている、ナンバーズとエインフェリアの戦いは熾烈を極めるだろう。 管理局は戦力が整っていない為ゆりかご、そしてヴァルハラを落とすのは困難、 だがヴァルハラにはレザード達が向かった、落ちるのも時間の問題だろう。 「今、俺が此処で出来る事それはゆりかごのコントロールを奪う事」 今現在ゆりかごにはめぼしい戦力が無いウーノと呼ばれるナンバーズはどう見ても戦闘型では無い、 ならば今動くべきなのだろう、此処を逃す手はない、そう考えコントロールルームに向かうグレイ。 とその時である、壁から突然右拳が現れグレイのこめかみを打ち抜き、その勢いで壁に叩き付けられた。 「なっなんだいったい!?」 「ウーノ姉の所には行かせない!!」 其処には壁をすり抜けて睨みを利かせたセインの姿があった。 セインはゆりかご内を捜索していた所、不審な動きをする不死者を発見、 興味本位で向かっていたのだが、ゆりかごのコントロールを奪うと言う言葉を耳にした為、攻撃を仕掛けたのだ。 「どけ!!」 「そう言って退く奴なんていないでしょ!!」 グレイは仕方なくデバイスを起動、その長い刀身を右手に持ち一気に振り下ろすが セインは壁をすり抜けて回避、切り傷を壁に残すだけに終わると今度は反撃とばかりにグレイの後ろに回り込んで攻撃、 後頭部に狙いを定めて打ち込むが既に読んでいたのか回り込みながら回避しつつ刃を薙払った。 「あぶなぁ!対消滅バリアを張っておいて良かった」 セインはウェンディと同じく対消滅バリアを全身に纏う事が可能で この際に攻撃を仕掛ければかなりの火力を持った一撃を放てるのである。 だがそれを活かせる技術は無く荒々しさが目立っていた。 しかしディープダイバーを用いた奇襲作戦は成功しており、苦戦を強いられるグレイ。 何処から姿を現すのが分からないのである、今の所相手の攻撃が大振りな為何とか凌いでいるがいずれこの均衡も崩れていく。 「どうにかしないとな…」 何かヒントになるモノはないのか…グレイは静かに構え周囲に緊張が走る。 セインもそれに気付いたのか今までとは事なり慎重になり始める。 暫くして静かに構える中、周囲に違和感を感じるグレイ。 表現するとしたら無音の中に一つの波、とても小さく本来なら気付かないものだが今はそれが大きく違和感の波に襲われていた。 恐らくあの戦闘機人が何かを仕掛けようとしているのか… 一つ…また一つ波を感じる、それは徐々に感覚が狭まっていた、仕掛けるのが近いのだろう。 とその瞬間大きな波紋を感じた、グレイは迷わずその波紋に刃を突き刺す。 「カハッ!!な…なん…で」 「貴様が姿を現すとき小さな波紋を感じた」 どうやらディープダイバーの際に起きる物質を通り過ぎる時に起こる微小の音に反応した結果のようで、 この結果を串差し状態のまま聞かされるセイン、刃は心臓を貫き命が消えていくのを感じていた。 「このまま…死んだら…みんなに…合わせる顔が…無い!!」 「なんと!!」 セインは鬼気迫る顔で左手でグレイを掴み続いて右拳に対消滅バリアを張り真っ直ぐ胴体を貫く。 その瞬間拳に纏っていた対消滅バリアのエネルギーを解放、グレイを中心に直径十メートル間は高密度のエネルギーに満ちその後消滅 二人がいた場所は大きく…そして綺麗に削られ姿を確認する事は出来なかった。 一方コントロールルームではウーノが戦況把握に勤めていた。 正面のモニターには命を賭けてエインフェリアを撃破し死んでいく妹達の姿が映し出されており、 近くでは爆発音が聞こえモニターを向けると大きく削れた傷跡が映し出されていた。 恐らくはセインが自爆でもしたのだろう…そしてこの光景はウーノにとって目も当てられない惨事だった。 だが自分の任務はガジェット及び不死者の指揮統率、それに長女である自分が妹達の死に目を逸らす訳にはいかない。 。 ウーノは妹達の死を必死に受け止め仕事に集中、モニターではドラゴンオーブの操作情報の移行が続けられていた。 その後暫くして移行が終了しスカリエッティにナンバーズの状況も含め報告した。 「そうか…外はそんな事になっていたのか……」 「いかがなさいます?ドクター」 モニターに映るスカリエッティは静かに目を閉じ考える様子を見せると、 何かを決意したかのように目を開けウーノに命令を下す。 「ドラゴンオーブを発射したまえ、彼女達を弔う為にも…ね」 それが出来るのは長女であるウーノしかいない…と静かに伝えウーノは頷き映像を切る、そしてドラゴンオーブの発射準備を開始した。 一方ヴァルハラ内で待機しているスカリエッティは閉じたモニターを見上げながらジッと佇んでいた。 近くにはレザードが同じく佇んでおり、静かに見守っていた。 「命とは儚いものだね…こうも簡単にこぼれ落ちていく」 「…………」 レザードは答えず静かに佇む、するとスカリエッティは自分の感情を覆い隠すように言葉を続ける。 命とは生物が生きている限りもち続け、すべての活動の源泉、だがナンバーズは造られた存在、 しかしレザードの手によって“魂”を持ち肉体も成長する事が出来るホムンクルスと融合していた。 いわば普通の“人”と何ら変わらぬ存在、それ故に命の終着点、生き物が持つ絶対なる出来事、死を得た事にもなる。 「彼女達は満足だったのだろうか…」 「…それは聞いてみない事には分かりませんね」 苦労して手に入れた命が理不尽に奪われる、憤り悲しみ…そして虚しさがこみ上げてくるスカリエッティ。 だが彼もまた理不尽に他者の命を奪ってきた、これは報いなのかもしれない。 そして…死の先を知るレザードはただジッと黙り込み、その時を待っていた。 奇しくもこの時エインフェリアであるイージスとミトラのデータ書き換えが終了した頃であった。 場所は変わり此処次元海に存在するドラゴンオーブに火が入り、その矛先がある方向へと向けられる。 その方角の先には本局が存在しており、周囲には多数の次元船が並びアルカンシェル隊も其処にはあった。 「目標補足、周囲の警戒を怠るなよ」 エインフェリアであるミトラが反撃に備え警戒を促す頃 ドラゴンオーブは呻き声のような音をかき鳴らし、二枚の翼から二つの月の魔力を吸収、 それを皮切りに砲身の前に赤い巨大な転送用の魔法陣が張られ、 中心の赤い水晶体の中では魔力が増幅・収束されていき臨海点を超えると、その長い砲身にて加速されて発射 転送用の魔法陣によって魔力砲は本局に運ばれ次元船を次々に破壊、待機していたアルカンシェル隊を一瞬にして藻屑に変えた。 場所は変わりゆりかご内ではドラゴンオーブの威力を目の当たりにしたウーノが目を丸くしていた。 ウーノの予想を遙かに越えた威力、三賢人が切り札とした理由も頷ける… この一撃が妹達の弔いになってくれれば…そんな事を思っているとこの結果を報告する為スカリエッティに再度連絡を取った。 一方で此処ヴァルハラの制御室ではスカリエッティにレザード、そして合流したトーレ、セッテ、ドゥーエの姿があった。 外の状況をスカリエッティが隠すこと無く伝えナンバーズも戦死した事を伝えると、 トーレは左手で頭を押さえ信じられないといった表情を浮かべセッテは無表情ながら悲しみに暮れていた。 …そしてドゥーエは未だ見ぬ妹達の死に実感がわかない様子を見せていた。 だが見ずとも妹…その死は十分に心を痛める出来事である、暫くは呆けておりいずれ実感へと結ぶには、そう時間はかからなかった。 すると其処にウーノからの連絡が入る、今し方ドラゴンオーブ撃ち、結果次元海に展開された次元船を壊滅することが出来たのだという。 「なるほど…大した威力だ」 そしてゆりかごでドラゴンオーブの操作が出来ると言う事を実証出来た事にも繋がり、ヴァルハラは用済みであることを指し示す内容でもあった。 早速スカリエッティは待機中のチンクとクアットロに連絡をとった。 動力室…部屋の中では動力炉が音を立てて動き、その目の前には待機中のチンクとクアットロの姿があった。 二人はレザードの待機命令から三時間以上、何もする事が無くその場で呆けていた。 すると其処にスカリエッティからの連絡が入る、それはヴァルハラの動力炉を破壊してもいいというものであった。 「了解しました、では早速開始します」 「気を付けて行ってくれたまえ」 スカリエッティは簡単に通信を切ると改めて動力炉を見上げる二人。 デカい…これほどのものを破壊するにはチンクが持つランブルデトレーターですら骨が折れる。 そんな事を考え徐に髪を掻き上げ、左耳に付けられているイヤリング型のデバイスが姿を見せる。 「どうするの?」 「手ならあるさ…ヴァルキリーセットアップ!!」 次の瞬間、デバイスが輝き出しチンクを飲み込むと其処には甲冑姿のチンクがそこに存在した。 チンクは他のナンバーズと異なりリンカーコアを持つ唯一の戦闘機人… ……であるはずであった。 「へぇ~それが博士から貰った力なのね…だったら私も、J.Dセットアップ!!」 するとクアットロが持つデバイスは起動、シルバーカーテンはフードの付いた妖美なバリアジャケットとなり、 髪の色も赤く変化、顔色も変化し手には頭蓋骨をモチーフとした禍々しい杖が握られていた。 「クアットロ!?その姿は!!」 「チンクちゃんだけがリンカーコアを持っている訳じゃ無いのよん」 クアットロもまたリンカーコアを手に入れその力を使う事が出来るようになった。 当然この事はレザードもスカリエッティも知らずクアットロの独断で行ったもの がしかし戦力としては申し分なく、思わぬ戦力も事実であった。 「まぁ~それはいいとして、早く破壊しましょう」 「……そうだな」 一人より二人の方がより確実、二人は足下に巨大な広域攻撃魔法用の多重多角形型の魔法陣を張り 瞳を閉じるとチンクは左手を動力炉に向け、クアットロは右手を上へかざし詠唱を始める。 「…其は忌むべき芳名にして偽印の使徒、神苑の淵に還れ…招かざる者よ……」 「我…久遠の絆断たんと欲すれば、言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう…」 チンクの左手の前には光が集まり強烈な光を放ち、クアットロの頭上では巨大な槍が音を立てて回転し矛先が動力炉に向けられると それに合わさるようにチンクの広域攻撃魔法の準備が整い、両者は目を見開きしっかりとした目線で動力炉を睨みつけた。 「セラフィックローサイト!!」 「ファイナルチェリオ!!」 二つの広域攻撃魔法が放たれ巨大な槍が動力炉に突き刺さると同時に圧縮された光の直射砲が動力炉を貫き 音を立てて崩壊、するとヴァルハラ全体が振動を始め亀裂が走り一部が崩れ始めた。 「これ以上は長居は無用だ、脱出する!!」 チンクの一言を皮切りに脱出を始め、クアットロはその道中でレザードに報告、 向こうもまた脱出を急ぎ突入口に向かっていると告げられた。 突入の時とは逆の道をひた走り、落ちてくる瓦礫をクアットロはファイアランス、チンクは原子配列変換で短剣に変えて処置、 すると目の前に巨大な瓦礫が道をふさぎチンクは立ち止まるとヴァルキリーを抜きカートリッジを二発使用、 マテリアライズを実行させ左手には身長を遙かに超える巨大な槍を携えた。 「時間が無い!押していく!!」 手に持つニーベルンヴァレスティを目の前の瓦礫に投げつけ破壊、周囲にエーテルが輝く中、先へと進む。 その後レザード達と合流し突入口まで一直線をひた走り突入口に辿り着き飛び出すように脱出 すると間髪入れず突入口が崩壊しそれを皮切りに次々に崩れていき、最終的に瓦礫の山と化してヴァルハラは終わりを告げた。 此処はミッドチルダ中央区画ヴァルハラは既に此処まで進軍していたようで、脱出したメンバーが立ち並ぶ中、 チンクとクアットロにレザードが現在の様子を伝えるとチンクはノーヴェが戦死した事に納得いかない表情を浮かべ クアットロに至っては何も動じていない様子を見せていた。 「そんな……あのノーヴェが戦死したなんて有り得ない!」 「ならば確かめてみてはどうです?」 レザードの意味深な言葉にチンクは首を傾げると説明を始める。 チンクのマテリアライズは魔力を消費して武具を具現化させる能力がある。 武具の具現化にはその武具の情報が必要となる、そしてそれは魂にも活用可能で 魂の情報…記憶を読み取り肉体を再構築することが可能、更に精神集中すれば魂の選別する事も可能となる。 つまりマテリアライズとは“魂を選定する者”に相応しい能力であるのだ。 「物は試しです、精神を集中しなさい」 「はい、博士」 早速チンクは目を閉じ深い深呼吸を行う、落ち着いてきたところで自分の感覚の視野を広げ始める。 一つ…また一つ魂を感じる、だが望む魂ではない、一つ一つの魂の色は違いその輝きも違って見える、 とその時、耳に微かな聞き覚えのある声が聞こえる、それはよく耳にする声、親しい声… ―――知っている…この声は…私の妹達!!―― 確信したチンクは声にあわせて魂を引き寄せ始める、暫くするとチンクの周りに光が集まり始めた。 その色は緑・桜・黄色に輝きフワフワと親しみすら感じていた。 「成功ですね」 「これが…魂?」 「さぁ、早くマテリアライズを」 魂は脆く儚い…このまま放っておくと自然に消滅してしまうとレザードに促されマテリアライズを開始するチンク、 両の手のひらで水をすくうように構え、手のひらから白く輝く魔力を放ち、その光は優しさを秘めていた。 そして魔力と魂が重なり合うと強く輝き出し膨れ上がるように大きくなると形を成し始め、 人の姿には成ると徐々に光が消え其処にはオットー、ウェンディ、ノーヴェが姿があった。 「あっアレ?どうなってるんッスか?」 「…確か、エインフェリアに倒されたハズ……」 「チンク姉?」 「どうやら巧くいったようですね」 魂に刻まれた情報を基に再構成された三人、だがマテリアライズの効果は三分程度、長時間は不可能である、 其処で三人の魂をチンクの体内に取り込む事で保存する事が可能であるとレザードは説明を終えた。 「取り敢えず魂の具現化は可能であると実証出来ただけでもよかったです」 眼鏡に手を当て答えるレザード、一方でもう二度と会えないと思われていた妹達と再会を果たしチンクは勿論の事、まだ見ぬ妹達をこの目で確かめたドゥーエ、 命に関して重さを知り命を得て、また奪われた者の答えを知りたかったスカリエッティなどメンバーは喜びに満ちていた。 その中で一人レザードだけが顎に手を当て静かに考えていた、 チンクの成果はこの後に行われる行動の実証に繋がった…と。 「ところで…他の者達はどうしているのでしょう?」 「そうだね…ウーノに聞いてみるよ」 レザードに急かされる形でスカリエッティはウーノと連絡を取る。 ウーノの説明ではアギトと負傷したディードは自力で行動、既にゆりかご内に移動している ギンガもまた手傷を負っているがゆりかごへと戻っている最中であると だがルーテシアはガリューを失った反動かその場でうずくまり落ち込んだまま一歩も動かずにおり、 ディエチもまた深手を追い、自力で戻るのが困難であるとのことだった。 「ふむ…ではチンクはルーテシア達の下にギンガの下にはトーレとセッテが向かいなさい」 ルーテシアの悲しみはチンクの能力によって癒す事が可能であり、 ギンガは自力で戻っているとはいえ怪我を考慮してトーレとセッテを向かわせるというものであった。 「ではその手筈で…残った我々は戻るとしましょう、計画も終わりに近付いていますしね」 「あぁ、ではみんな、ゆりかごに戻ろ―――」 とその時である、スカリエッティの言葉に呼応するように桜色の直射砲がレザードに迫り、 レザードはとっさにガードレインフォースを張って攻撃を受け止める。 そして直射砲の先を見つめるとはなのはがレイジングハートを向けて睨みつけており、 周囲にはヴィータ、フェイト、はやてなど機動六課最高戦力が集いその中にはアリューゼとメルティーナの姿もあった。 「これはこれは…対した面子で……」 「見つけた……レザード・ヴァレス!!」 なのはの力強く、そして怒りに満ちた瞳をレザードに向ける中、 レザードは余裕のある表情を浮かべ、見下す目線にてなのは達を見下ろしていた。 ifbへ 目次へ if2へ
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思念通話 ミッドチルダ式の「念話」に相当する、ベルカ式の遠隔精神通話。術式は違うがシステムはほぼ同様で、異なる術式間でも通信は可能。 騎士甲冑 騎士が身に纏う、魔力で生成する防護鎧。 シグナムらの甲冑ははやてのイメージによるもので、それぞれの役割や戦闘スタイルに合わせて形状を、 髪や瞳の色に合わせて配色を、それぞれ丁寧に考えてデザインしたようである。